オンラインの英和・和英辞書といえば、英辞郎がまっさきに思い浮かぶと思います。翻訳者でなくても、通常業務で使ったり、英語の情報を読むのに利用したりしている人も多いと思います。
私は英辞郎は、CD-ROM版の頃から、かれこれ20年近く利用しています。
現在、翻訳の仕事をするにあたり、オンラインの英辞郎 on the WEB Pro版を愛用していますが、翻訳者目線で、英辞郎が翻訳に利用するにあたり、使えるのか使えないのかを見ていきたいと思います。
併せて、英辞郎のインストール版 (DVD-ROM版)、オンライン版の3つの種類についても、それぞれの違いについて見ながら、結局どれがオススメなのかを書いていきます。
英辞郎とは?
英辞郎は、EDP (Electronic Dictionary Project) が制作している、英和・和英データベースで、2002年からCD-ROM版(のちにDVD-ROM版)、オンライン版をリリースしています。
パソコンのみならず、スマホやタブレットでも利用できるものです。
まずは、英辞郎の種類とそれぞれの特長を見ていきましょう。
英辞郎の種類
オンライン版かDVD-ROM版 (インストール版) か
ここでは、オンライン版である「英辞郎 on the WEB」とDVD-ROM版である「英辞郎第11版」を見ていきます。
一番の違いは収録項目数
オンライン版かDVD-ROM版か、ですが、一番大きな違いは、
- 収録項目数
です。
オンライン版の収録項目数の226万(Ver.168/2022年1月7日 時点)に対し、DVD-ROM版の英辞郎第11版は217 万(Ver.159/2020年1月8日 時点)ですので、大きな隔たりがあります。収録項目数が多ければ多いほど、マッチする例文にヒットする確率が高くなります。
インターネットのつながらない環境で翻訳をするのでなければ、断然オンライン版の方が便利です。
オンライン版の最新と、DVD-ROM版の最新には「ずれ」がある
そしてもう一つ。
記事執筆時点での最新版が、
オンライン版が、Ver.169/2022年3月4日であるのに対し、
DVD-ROM版の英辞郎第11版は、Ver.159/2020年1月8日 です。
実に2年以上の隔たりがあるのです。
DVD-ROM版の英辞郎第12版 がいつリリースされるかは不明ですが、下記のCD-ROM/DVD-ROMの歴史から想像するに、2022年1月頃なのではないか?と思っていましたが、2022年3月現在、まだ12版はリリースされていません。(Wikiの英辞郎ページを参照)
- 『英辞郎』道端秀樹監修、EDP編、アルク、2002年3月12日。ISBN 4-7574-0570-7。 (100万語収録)
- 『英辞郎 第二版』EDP編、アルク、2005年3月3日。ISBN 4-7574-0838-2。 (130万項目収録)
- 『英辞郎 第三版』EDP編、アルク、2007年2月2日。ISBN 978-4-7574-1136-4。 (150万項目収録)
- 『英辞郎 第四版』EDP編、アルク、2008年9月18日。ISBN 978-4-7574-1456-3。 (166万項目収録)
- 『英辞郎 第五版』EDP編、アルク、2010年2月4日。ISBN 978-4-7574-1820-2。 (172万項目収録)
- 『英辞郎 第六版(辞書データVer.128/2011年4月8日版)』EDP編、アルク、2011年6月3日。ISBN 978-4-7574-1985-8。 (182万項目収録)
- 『英辞郎 第七版(辞書データVer.136/2013年1月8日版)』EDP編、アルク、2013年3月11日。ISBN 978-4-7574-2265-0。 (190万項目収録)
- 『英辞郎 第八版(辞書データVer.141/2014年8月8日版)』EDP編、アルク、2014年10月7日。ISBN 978-4-7574-2489-0。 (195万項目収録)
- 『英辞郎 第九版(辞書データVer.148/2016年4月8日版)』EDP編、アルク、2016年6月7日。ISBN 978-4-7574-2812-6。 (202万項目収録)
- 『英辞郎 第十版(辞書データVer.151/2018年1月18日版)』EDP編、アルク、2018年3月12日。ISBN 978-4-7574-3060-0。 (205万項目収録)
- 『英辞郎 第十一版(辞書データVer.159/2020年1月8日版)』EDP編、アルク、2020年3月6日。ISBN 978-4-7574-3610-7。(217万項目収録)
Wikiの英辞郎ページより https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8B%B1%E8%BE%9E%E9%83%8E
英辞郎 第11版(辞書データVer.159/2020年1月8日版) (
英辞郎のバージョン履歴
英辞郎のサイトにある、英辞郎バージョン履歴を確認すると (以下の画像を参照)、
最近のリリースは、2022年3月だったことがわかります。(赤い矢印)
一方、 DVD-ROM版の英辞郎第11版 (Ver. 159) は、最新からさかのぼること、10バージョン前です。(青い矢印)
オンライン版は、常に最新の情報で利用できるようですが、 DVD-ROM版の英辞郎は、どのタイミングでより多い項目数で利用できるのかが分からないというのがオンライン版をオススメする理由のひとつです。
英辞郎のVer.167の項目内訳詳細
なお、英辞郎のVer. 169の項目の中身は以下のようになっています。
英辞郎 … 227万項目
例辞郎 … 83.3万項目
略語郎… 8.5万項目
では次に、オンライン版のうち、英辞郎 on the WEBの3種類について見ていきます。
英辞郎 on the WEBの3種類
この3種類の大きな違いは、
- 価格
- 例文表示の有無とその件数
です。
価格は、無料か月330円 (年払いなら3,630円) かですが、この330円の投資は費用対効果の高いものだと思っています。
なぜなら、翻訳をするにあたり、一番ポイントになるのが参照できる例文の数だからです。
翻訳をしていてしっくりくる表現が、頭の中から引き出せなければ、例文の力に頼りますが、
それでも見つからなければ、後述する、コーパス検索システム「梵天」などを利用するか、Googleで検索をします。
他のツールを利用せずに、英辞郎という辞書ツールの中でまかなえてしまえば、こんなに効率的なことはありません。
翻訳は、1分1秒でも早く進めるのが大事だからです。
ではここからさらに、翻訳者の私が、オンライン版の中でも、Pro版・ProLite版・無料版の3つのうち、Pro版をオススメする理由を列挙していきますね。
英辞郎 on the WEB Pro版の良いところ
英辞郎 on the WEB Proは以下のボタンから詳細が確認できます。
その1:英語と日本語を検索ボックスに同時に入れて検索できる
英語と日本語をまとめて検索ボックスに入れて検索することができます。
たとえば、「refine 洗練」と入れて検索すると、refineを洗練という訳語で使用している例文がずらーっと出てきます。
refine/洗練と紐づく名詞を知りたいときに便利です。
refineとだけ入力して検索することもできるのですが、そうすると「洗練」という訳語が使用されているもの、使用されていないものの両方が結果に出てくるので、選り分けて探すのが大変になる。
無料版でも、Pro Lite版でもこういった検索はできるのですが、例文の有無 (無料版には例文なし)、例文の数 (Pro版だと143万件、ProLite版だと19万件) で検索結果に大きな違いが出てきます。
その2:整列機能
特定の単語を「整列」で検索すると、その特定の単語を中央に配置した状態で、例文はフレーズを確認することができます。
たとえば、injureという単語の意味を引くと、
〔人や動物や体の一部を〕傷つける、痛める、けがをさせる
・The worker was injured in a fall from a ladder. : その労働者は、はしごから転落して、けがをした。
〔行為や言葉で人の心を〕苦しめる、悲しませる、傷つける
〔人の評判などを〕おとしめる、傷つける
と出てきますが、
「人や動物の体の一部」以外で、傷つけるというとき、どのような単語があり得るのか、というのを知る時便利です。
なぜなら、整列されているので、injureのすぐ右側 (上の画像でいうと、緑色の単語) を見ることで、「人や動物の体の一部」かそれ以外かが分かります。
その3:頻度集計機能
「頻度集計」機能を使うと、コロケーション (語の連結、 結合、 連語、 項目連結) が頻度とともに確認できます。
例えば、「(Windowsなどの) OSでは」といった場合に、前置詞は、in なのか on なのか分からないときに、この機能で当たりをつけることができます。
頻度が高ければ正しいかというと、そうでもないですが、それでもwithではなさそうだな、という絞り込みは可能です。
これだけでは答えが出なかった(前置詞が明確にならなかった)場合、Googleで、”in windows OS”と”on Windows OS” (ダブルクォーテーション ” を前後につけて) をそれぞれ検索して、コンテキストを確認します。
口コミ「例文がひどい」
「例文がひどい」なんていう口コミが出てくることがあります。
ググってみると、「反日」に関連した例文が多々含まれていることについて「ひどい」と言われていることが分かります。
「日本人 残酷」で英辞郎無料版で検索してみると、そもそも無料版では例文が表示されないので、これは当てはまりません。
一方、英辞郎 Pro版で同じ文字列を検索してみると、Pro版では例文も検索できるので、それなりの例文は挙がってきますが、とあるブログで指摘されていた例文は見当たりませんでした。
Pro版では例文そのものの見直しが行われているようです。
さらに、無料版ではそもそも例文が利用できなくなっています。
Wikiの英辞郎ページには、下記の記載がありますが、 英辞郎on the WEB Pro版では、ヤック企画の例文は存在しているので、正しくないと思われます。
なお、英辞郎on the WEB無料版についてはそもそも例文が利用できません。
「ヤック企画の出版物から利用したコーパスにそういったものが含まれていて、指摘を受けた上で2009年にヤック企画のデータを削除した」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8B%B1%E8%BE%9E%E9%83%8Eより引用 Wikiの英辞郎ページ
翻訳者としては欲しい例文があれば、例文の内容が残酷だろうと何だろうと、さして気にしなければよいと思っています。
翻訳時に辞書以外で役立つもの
英辞郎 on the WEB Proだけでは足りないときは、以下のツールも利用しています。
コーパス検索システム「梵天」
文字列情報を利用した検索サイト「梵天」が便利です。
注:2021年12月24日を持って、『梵天』は閉鎖され、2021年12月下旬に『少納言』を再開するとの案内が、コーパス開発センターのサイトに掲載されています。
検索結果としては、(検索対象文字列と、その前後を含む) 文、執筆者、生年代、ジャンル、書名 /出典、出版年などが出てきます。
コーパス検索システム「中納言」
中納言は、国立国語研究所で開発された、日本語コーパスを検索するためのWebアプリケーションで、文字列検索、品詞による検索、長単位検索、 データのダウンロードができます。
利用そのものは無料でできますが、ユーザー登録が必要です。
weblio 類語辞典
外来語として日本語に定着している言葉の場合、そのままでも意味は通じるけれど、もっとふさわしい他の言い回しがないか探すときに、weblio 類語辞典を利用しています。
まとめ
英辞郎を利用するなら、だんぜん英辞郎 on the WEB Pro版です。
DVD-ROM版より新しく豊富なデータを利用できるという点、Pro版にしかない「頻度集計機能」、「整列機能」が活用できる点から、非常に便利に使えます。
必ずしも、英辞郎 on the WEB Pro版だけで、単語や言い回しの調べものがまかなえるわけではありませんが、無料版やPro Lite版よりは、効率的に使うことができます。
なお、月払いよりは年払いの方がお得です。
年払いだと、申し込み月を無料で利用することができますので、申し込み月の終わる前に使い続けるか、Pro Lite版・無料版に戻すかを決めるのも一つの方法です。(申し込み時にクレジットカード情報を入力します。)
最後に、当記事が、英辞郎のどれを利用するか迷ったときの一助になれば幸いです。